2011年1月27日木曜日

裁判員法廷

芦辺拓の「裁判員法廷」(文藝春秋)を読みました。

著者自身が「あとがき」で次のように述べています。
「本書は、2009年施行の裁判員制度をとりあげた、おそらく本邦初の小説集です。」と。
また「純然たる小説ーそれも本格ミステリとしては、これが第1号ではないかと思います。」とも。

本書は、3つの中編小説を1冊にまとめたもので、「審理」、「評議」、「自白」の3編からなっています。3編に共通するのは、弁護士(森江春策)、検事(菊園綾子)、3人の裁判官。6人の裁判員はまったく違う人物で、その中の一人は「あなた」という読者。

著者は「裁判員裁判」について肯定的な立場をとっているようです。

私自身は、「肯定的」にはとらえられません。この3編の小説に共通することは、弁護士の森江春策の卓越した弁護活動により、検察から「有罪」とされた被告人が、合議の結果「無罪」となること。つまり、えん罪から被告人を守る小説なのです。

このことを違う角度から見れば、「えん罪」が起こりやすいことの証でもあると言えます。


今までの裁判制度の中でも多くの「えん罪事件」がありました。2009年から始まった「裁判員制度」では、「公判前整理手続」により裁判を短期間で終わらせる仕組みそのものが「えん罪」を新たに生み出すことに結びつくと懸念せざるを得ません。えん罪を生まない制度的な保障がないかぎり、「国民に開かれた新しい裁判制度だ」と、もろ手を挙げて賛成することはできません。


裁判員制度の対象となる裁判は、重大犯罪だけです。死刑や無期懲役になりかねない裁判であるだけに、すでにスタートしてしまった制度ではありますが、見直しが必要なのでは?…と、そんなことを考えさせられた小説でした。
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